拝啓・現場小町 - Vol.18 Japan Hunter Girls 田坂 恵理子さん
文/編集部 写真/三川ゆき江
異業種とのコミュニケーションで 狩猟の世界に新風を起こす
1977年、岡山県生まれ。2000年、辻本店に入社し酒造りを始める。 07年、前杜氏の急逝のため杜氏(とうじ)就任。受賞歴は、07年 から広島国税局清酒鑑評会・純米酒の部で6年連続優等賞など。
ジビエ利活用で観光・食育も
都心部から約1時間半の神奈川県南足柄市。ここの山々を舞台に、女性ハンターによる狩猟グループ「一般社団法人Japan Hunter Girls(以下、JHG)」が、狩猟の世界に変革を起こしている。代表理事を務める田坂恵理子さんが、この世界に足を踏み入れたきっかけは、極めてユニーク。「当時飼っていたワンちゃんのためにペット用のシカ肉を買って食べさせていたんですが、値段が割と高くて。それで自分で捕ろうと始めました」(田坂さん)。
折しも世間では“狩りガール”が話題に。田坂さんは神奈川県猟友会の当時の会長と一緒に、女性たちが狩猟を続けやすい環境づくりをめざし、「神奈川県県猟ガールズ」を組織した。現在では、料理研究家や写真家、主婦など、多彩なメンバー14人が集っている。
さらに田坂さんを含む3人の女性は、20年に一般社団法人としてJHGを立ち上げた。目的の一つ目は、狩猟界の人材育成。「まず女性の狩猟者を増やしたい。女性ハンターが経験を積める機会や場所(山)を提供し、彼女たちの疑問や相談に乗っています」。狩猟見学体験ツアーやジビエ料理イベントなどを主催し、女子大生など若い世代の1人参加も多いという。
もう一つの大きな目的が、狩猟界の情報発信だ。「私たちは、シカやイノシシなどの有害鳥獣の駆除を担っています。動物たちが畑を荒らし、植林した木の芽や皮を食べてしまう。傷つけられた木が枯れ、土砂崩れなどの原因につながります。南足柄の里山で何が起きているのか、そのために有害鳥獣駆除が必要なこと、さらに捕ったあとどうするのかなどをしっかり伝えたいですね」。しかし、狩猟者と林業従事者、農家の連携は十分とはいえないという。「垣根を越えたコミュニケーションは、私たち女性が得意とするところなのかなと感じます」
JHGは南足柄市の「足柄森林公園丸太の森」内に、ジビエ処理施設を建設予定だ。現在は隣町の施設を利用しているが、市内に施設ができることで、地域活性化にもつなげたいという。「市が把握している有害鳥獣駆除でのシカの年間捕獲頭数は200頭近くに上り、年々増加傾向です。その命を無駄にせず、観光や特産品、子どもたちの食育にも活用したいです。農家さんたちが『コラボレーションしたい』と声を上げてくれたことも、力強い後押しになりました」。もし、処理施設見学で「動物を殺すのがかわいそう」と感じたとしたら、その気持ちに自分なりにどう向き合うのか、害獣被害をどう減らすのか。生まれた感情の先を考えるきっかけにしてほしいと田坂さんは話す。
「やりたいことがいっぱいあって」と力強く言う田坂さん。有言実行型で人を引っ張るエネルギーが、新しい狩猟の未来を創っていく。
「狩猟」と「林業」をつなぐ架け橋に
狩猟のかたわら、神奈川県内の林業会社や森林組合などへの就職希望者向け研修「かながわ森林塾」にも通う。「同じ『山』での仕事として林業の知識も身に付けたい。害獣被害が増えている林業も、今後さらに罠をかけることが多くなります。将来は林業と狩猟をつなぐ仕事がしたいです」
一般社団法人
Japan Hunter Girls
理事
脇島里江さん
熱いハートと野生の勘、生命力が強い人。今の狩猟界に足りない、他者に対して「関わる力」「拓(ひら)いていく力」を持つ、今まで出会ったことのない人です。その生き方を尊敬します。