Vol. 08 まさにマジック、いまも現役の水平昇降 筑後川昇開橋 (福岡県大川市、佐賀県佐賀市諸富町)
筑後川に架かる世界有数の昇降式可動鉄橋。完成したのは1935年で、2003年に国の重要文化財となっている。
日本機械学会の「機械遺産」にも認定されている。佐賀県側には「橋の駅ドロンパ」があり、車が停めやすい。
仕組み図参考:『日本機械学会誌』
「筑後川昇開橋」は国鉄佐賀線の可動橋として1935年に完成。約50年後に佐賀線が廃止となり、現在は歩行者のための遊歩道となった。昇降機構は現役だ。
可動橋の仕組みとしては「はね橋」が有名だ。真ん中で2つに分かれ、ハの字にはね上がるもの。だが、ここでは可動部が水平に上昇する。全長は約500mで、橋桁の一部約24mが最大約23mの高さまで上がる。メリットは、巻き上げ機1台で昇降できることだ。
可動部の設計を担当したのは鉄道省の技師だった坂本種芳(1898〜1988年)。高さ約30mの吊り上げ塔と、滑車、ワイヤで48tの桁を吊り上げる。水平を維持したり、静止直前に衝撃を和らげたりする機構は、いまも機械エンジニアたちのリスペクトの的だという。
坂本は本業の傍ら、アマチュアの手品師として活躍。ひもを使った奇術で世界的な賞も受賞した。管理事務所の方におそるおそる「橋を上げることはできますか」と聞くと、最後まで言い終わらないうちに上がり始めた。そのスムーズさ、軽やかさは驚きでしかない。坂本は生前、「新しいトリックで人を驚かすことが好きで、そんな心理が昇開橋の設計にも働いた」と語ったという。まさにマジックだ。
※昇降のリクエストは、月曜(祝日のときは翌日)を除く9時~16時30分に対応可能。詳しくは、公式サイトをご覧ください。
宮沢 洋(みやざわ・ひろし)
画文家、BUNGA NET代表兼編集長。1967年生まれ。1990年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、日経BP社入社。2016年~19年、日経アーキテクチュア編集長。2020年独立、建築ネットマガジン「BUNGA NET」を運営。著書に『隈研吾建築図鑑』『日本の水族館五十三次』など