拝啓・現場小町 Vol. (28)
各方面の現場でイキイキと輝く活躍する女性にその醍醐味や将来の目標などをインタビュー。
今回は、ワインの本場であるヨーロッパをはじめ海外からの評価も高い、タケダワイナリーの岸平典子さんをご紹介します。
岸平典子さん
代表取締役社長 兼 栽培・醸造責任者
山形県生まれ。大学卒業後、フランスのワイン技術者学校で4年の研修を経て帰国。生家であるタケダワイナリーのセラーマスターに。2005年には国内で女性初の栽培・醸造責任者、兼、5代目代表取締役社長に就任。上山地域のワイン文化の醸成にも貢献している。
ワイン造りは一生かけて取り組める仕事
山形県上山市のタケダワイナリーは、1920年に創業したジャパニーズワインの老舗。「良いワインは良い葡萄から」をモットーに、自然との共生を大事にしたものづくりを続けている。
「ワインはその土地でしか造れない味を生み出せる究極のローカルドリンク。山形のものを使い、山形の味を表現することが、私の一番のこだわりです」
そう語るのは5代目社長の岸平典子さん。生まれ育った上山の地でブドウを育て、ワインを造ることは、自身のアイデンティティーでもある。気付きのきっかけはフランスでの修業中に届いた、先代(父)のワインの味だった。「一口で『故郷の味だ』とグッときて。フランスでワイン造りを極めるのもいいけれど、土地や気候のことが肌で分かる上山なら、より自分らしいものづくりを叶えやすいと思ったんです」
帰国後は、フランスで学んだ知見を活かし、畑作りや醸造方法の改良に励んだ。畑には減農薬栽培でもいいブドウが採れるよう、雨除けのシステムを導入。醸造時はブドウ本来の力による自然な発酵を促すため、状態のいい果実だけでワインを仕込んだり、衛生管理の基準を厳しくしたりした。
しかし、理解を得るには一筋縄ではいかなかった。「私のやり方を認めてもらうまで、数えきれないほど父とぶつかった」と岸平さんは当時を振り返る。
「尊敬する父のやり方を否定したわけではありません。老舗でも時流に合わせて手段を変えていかないと先がない。代々築いてきたものを守るためにも、妥協はできませんでした」
努力が実り、ワインの質は上がった。だが、いいワインを造り続けるのは容易なことではない。栽培も醸造も自然と向き合う仕事。特に近年は温暖化による気候の変動が大きく、経験だけでは乗り切れない場面も多いという。「ブドウの木も醸造タンクも、その日の調子に合った手当や管理が不可欠。1つの木、1つのタンクに合わせた方法を判断していくのは大変ですよ。でも、そこが面白さでもあるんです」苦労が大きい分、喜びもひとしおだ。「何年やっても仲間と育てたブドウがワインになったときには、不思議な感動がある。お客さまからの『おいしかった』の声も本当にうれしくて。これからも多くの方に喜んでいただけるようなブドウとワイン造りに励みます」
近年は地域おこしを目的とした「かみのやまワインの郷プロジェクト」にも参画。ブドウ栽培やワイナリーを始めたい人への支援にも尽力している。
「ワイナリーなら耕作放棄地を活用できるし、観光で訪れる人が増えれば、雇用も増える。ワインの産地と認められるには、1社だけじゃダメ。ワイナリーの数を増やし、産地という“面”にしていくため、私が学んできたことをどんどん活かしていきたいです」
岸平さんのオフタイム
お気に入りの本を読む いまは夏目漱石を再読
昔から本が好きなんです。でも普段は忙しいので、土日に少しだけとか、お正月休みにまとめ読み。最近の愛読書は高校のときに読んでいた、夏目漱石の作品。いまは『それから』を読んでいます。当時との感想の違いを比べながら、あの頃の自分を振り返るのも楽しみの1つです。
有限会社タケダワイナリー 専務取締役 岸平和寛さん
妻はブドウの栽培にもワイン造りにも、強い情熱を持つ人。どんなときも一生懸命で、思ったことをやりぬく意志の強さと行動力がある。好奇心を追求するひたむきさも、尊敬している部分です。
文/編集部 写真/松浦幸之介