建設現場のカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを推進する「ゼロエミッションビジネスモデル構築プロジェクト」。
このプロジェクトを部門横断的に支援するワーキンググループ(WG)が、現場の最前線で課題に向き合いながら、持続可能な社会の実現に向けて取り組んでいる。
今回は、そのメンバーにWGのミッションや直面している課題について語ってもらった。
王 慧
新事業創生ユニット
ゼロエミッションビジネスモデル
構築プロジェクト
部長代理
西村 嘉人
新事業創生ユニット
ゼロエミッションビジネスモデル
構築プロジェクト
主任
網野 正剛
コンストラクションビジネスユニット
サービス統括部
テクニカルサポート部
部長
上野 修平
コンストラクションビジネスユニット
事業企画統括部
製品マーケティング部
部長代理
牧村 雄基
コンストラクションビジネスユニット
開発設計統括部
電動建機開発部
主任技師
――WGはどのような役割を担っているのですか。
王:電動建機の普及に向けて、WGでは課題の洗い出しとその解決に向けた活動を進めています。従来のエンジン式建機とは市場環境が大きく異なるため、どのようなニーズがあり、どのような場面で活用されるのか、ユーザーに合わせて製品の特性を見極めることが重要です。こうした議論には、マーケティング、設計、営業、アフターサービスなど、さまざまな部門の知見が欠かせません。そのため、WGは部門横断型の体制で構成されており、現場の声を反映した実効性の高い活動を行っています。
上野:当社は1962年に電動ショベルを開発して以来、建設機械の電動化にいち早く取り組んできました。2020年には、欧州市場においてバッテリー駆動式ショベルZE85を発売。その後もZX55U-6EBやZE135など、バッテリー駆動式ショベルのラインアップを拡充してきました。これらの製品の展開を通じて、バッテリー駆動式ショベルを活用しやすい現場や環境、そしてお客さまの使い方の傾向が明らかになってきました。一方で、電動建機では十分に対応できないケースも存在し、そうした場面ではどのような提案をできるかが新たな課題となっています。WGでは電動建機に加え、軽油代替燃料や水素といった選択肢も視野に入れながら、カーボンニュートラルの実現に向けた全体方針の策定を進めています。
――みなさんの所属部署と専門領域、WGで取り組むべき課題についてお話しください。
上野:私は製品マーケティング部で電動建機の商品企画を担当しています。電動建機の普及を進める上では、単に建機本体を提供するだけでは不十分だと感じています。商品企画に携わる中で、建機単体ではなく、「建機本体・電源・運用が一体となったソリューション」として提供することが、より多くのお客さまへ価値を届けるために不可欠だと考えるようになりました。
牧村:私は電動建機開発部で、バッテリー駆動式ショベルに搭載されるバッテリーや電動コンポーネントの選定・開発を担当しています。電動建機の開発において、私が特に課題と感じているのは“経済合理性”です。単に本体価格を下げるだけではなく、お客さまの運用におけるトータルライフサイクルコストを含めて、メリットを実感いただけるような運用パターンを提示していくことが重要だと考えています。技術開発だけでなく、実際の利用シーンを踏まえた提案が、普及拡大の鍵だと感じています。
西村:私はゼロエミッションビジネスモデル構築プロジェクトに所属しており、これまで主に営業を担当してきました。現在は、お客さまの声を直接伺いながら、現場の状況に即した解決策を提案し、実証していくことが私の役割です。現場の課題に寄り添いながら、電動建機の導入をよりスムーズに進められるよう、最適なソリューションの構築をめざしています。
網野:私はテクニカルサポート部に所属し、現在は電動建機のアフターサポート体制の構築に加え、バイオ燃料やRD(リニューアブルディーゼル)燃料などの軽油代替燃料に関する問い合わせ対応も担当しています。従来のエンジン式建機は、基本構造が長年大きく変わらないため、各地域に熟練のサービススタッフがいて、万全なサービス体制が整っています。しかし、電動建機はそうはいきません。今後、導入台数が増えていく中で、適切なサービスを提供するためには、早期に稼働情報および修理事例を集め、現場のサービススタッフにノウハウを共有していくことが重要です。新しい技術だからこそ、現場との連携を密にしながら、サポート体制を築いていくことが必要です。
王:私は入社以来、海外向け輸出業務など、主に海外事業に携わってきました。現在はゼロエミッションビジネスモデル構築プロジェクトに所属し、建設現場のカーボンニュートラル実現に向けたビジネスモデルの構築を担当しています。この取り組みでは、環境負荷の低減だけでなく、お客さまと当社の双方にとって経済的・経営的なメリットをもたらすことが重要です。持続可能な社会の実現に向けて、環境性と経済性の両立を図る新たな価値の創出をめざしています。
――WGでは現在どのような活動を行っていますか。
西村:私がこのプロジェクトで大切にしているのは、お客さまの声に耳を傾けることです。多くの企業が2050年のカーボンニュートラル達成を目標に掲げていますが、実際には「何から始めればよいのか分からない」という声も少なくありません。建設現場におけるCO₂削減の方法は一つではなく、現場の環境や作業内容によって最適なアプローチは異なります。だからこそ、お客さまから現場の状況を詳しく伺い、このWGで多角的に検討した上で、最適な提案を行えるよう努めています。お客さまの課題に寄り添いながら、実効性のあるカーボンニュートラルの実現を支援していきたいと考えています。
牧村:現場から届く生の声は、設計にとって非常に価値があります。バッテリー駆動式ショベルの場合、まだ運用データが十分に蓄積されていないため、お客さまの声や営業担当からの意見は、設計の観点からも有益でありがたいものです。現場の課題やニーズを直接製品に反映できる体制が整い、より実用的で信頼性の高い製品づくりにつながっていると思います。
上野:私自身も、お客さまの現場に足を運び、お話を伺う機会を積極的に設けるようにしています。現在は電動建機を中心に取り組んでいますが、現場によっては電動よりも軽油代替燃料が適しているケースもあり、水素の可能性も模索しています。カーボンニュートラルの実現に向けては、現場環境や作業内容、そして国ごとの事情に応じて、最適な選択を提案できることが重要です。
西村:確かに、地域によって電力の供給状況は大きく異なります。例えば、ノルウェーのように水力発電を中心とした再生可能エネルギーの割合が高い国では、電動建機の環境メリットが最大限に生かされやすく、相性も非常に良いです。一方で、火力発電への依存度が高い地域では、電動以外の選択肢が適している場合もあるでしょう。電動建機にはCO₂削減だけでなく、排出ガスが出ないことや騒音が少ないといった大きなメリットもあります。すでに電動建機の現場実証も始まっており、実際の運用データの蓄積が進んでいます。今後は、ICT施工、建設現場のデジタル化・見える化の活用による効率化なども組み合わせながら、個々のお客さまにとっての最適な解決策を見つけ出し、提案していきたいです。
――このWGおよび日立建機は、今後カーボンニュートラルの実現に向けてどう取り組んでいくのでしょうか。
上野:2019年ごろから各社が電動建機を市場に投入し始めましたが、稼働時間や充電に関する課題が徐々に明らかになってきました。例えば、バッテリー容量を増やせば稼働時間は延びますが、その分価格も上がってしまいます。現場によっては、バッテリー容量を抑えて有線で使用するほうが適しているケースもあるかもしれません。こうした課題に対応するためには、電動建機ならではのオプション提供も含め、柔軟な商品設計が求められます。当社では2024年にZERO EMISSION EV-LABが設立され、実機を使った検証が可能になったことで、より現場に即した開発が進められるようになりました。
牧村:電動建機の設計において、バッテリーの選定は重要な要素ですが、コストをいかに抑えるかが大きな課題です。複数の機種で共通して使えるバッテリーの設計も視野に入れる必要があると考えています。こうしたアプローチによって、コスト面だけでなく、保守性や供給の安定性にもつながると期待しています。
王:カーボンニュートラルの実現に向けて、どのタイミングで、どの技術が主流になるかを見極め、どの技術が来てもお客さまに最適なものを届けられるよう、準備を整えておくことが私たちの役割だと考えています。お客さまのニーズに合わせて最適なソリューションを提供できる体制を整えること
――それが、私たちが今後3年以内に達成すべき目標です。
網野:お客さまへのサービスサポートという点では、私たちは何十年も前から、機械の故障によるダウンタイムを減らすことに取り組んできました。これは結果的に、地球環境にも優しい取り組みだといえると思います。なぜなら、機械の故障によるダウンタイムが減ることで、代替機の手配や輸送が不要になり、余分な燃料消費やCO₂排出を抑えることができるからです。また、部品交換や修理に伴う資源の使用も最小限に抑えられ、機械が安定して稼働することで、作業の効率が向上し、無駄なアイドリングや再作業も減少します。これらすべてが、環境負荷の低減に貢献しているのです。最近では電動建機や軽油代替燃料が注目されていますが、各部門が日々行っている活動そのものが、環境負荷の低減につながっているという意識を早く根付かせることが重要です。会社全体で環境を考える文化が育てば、それはお客さまへの価値提供にもつながります。電動建機や軽油代替燃料に限らず、「環境のために私たちは何ができるか」という会話が当たり前になることをめざしています。私たちは、こうした日々の積み重ねを通じて、当社の環境目標である「2050年までのバリューチェーン全体を通じたカーボンニュートラルの実現」の達成に向けて取り組んでいます。
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