株式会社柿﨑工務所
山形県新庄市
会社概要
昭和24年(1949年)に山形県新庄市で創業した株式会社柿﨑工務所は、最上地域の発展と住民の安全・安心な暮らしに寄与するため、最上に根ざした総合建設会社として、「最上(さいじょう)の最上(もがみ)へ」を企業理念に掲げ、70年以上にわたり地域とともに歩んできた。現在もグループ企業と志をひとつにし、国や県が発注元となる土木・舗装工事や建築工事などを中心に、最上地域に根ざした総合建設業を展開。長年培った経験と技術を生かして道路や橋梁など地域経済の発展に欠かせないインフラ整備事業に注力し、災害の未然防止や環境保全を図るダム、堤防などの整備にも積極的に関わっている。
隣接する複数現場や土場を行き来するダンプトラックの錯綜に課題
今回、柿﨑工務所が施工した「最上川上流大久保第一遊水地下流改良工事」は、『最上川中流 ・上流緊急治水対策プロジェクト』の一環で、最上川の築堤盛土と護岸工事、ダンプによる盛土材の土砂運搬がメインの工事である。同プロジェクトは令和2年7月豪雨により甚大な被害が発生した最上川中流・上流において、国・県・市町村等が連携して河道掘削、堤防整備、分水路整備、遊水地改良などの取り組みを集中的に実施。洪水による氾濫を防止し、浸水被害の軽減を目的として施工が始まった。
その事業範囲は広く、令和5年度は柿﨑工務所施工の現場を含め、Testimonial79でも紹介した升川建設施工の現場(本工事となる大久保地区5現場と押切地区6現場)が隣接して施工を行っていることから、1現場あたり約39,000㎥の盛土材搬入や既存設備の取り壊しなど、2業者が投入するダンプトラックの台数は1社あたり常時10台、最大20台にのぼり、現場周辺で行き交う多数のダンプトラックの錯綜が課題であった。
着工にあたり、発注者である国土交通省の指示で11現場全体の安全を管理する安全協議会が発足。大久保地区の5現場では混雑解消のため土取場を東西2つに分け、現場への土の搬入口も別々にすることにしたが、土取場までの道幅が狭く、現場近辺も一方通行が多いため、どうしても錯綜が発生してしまう可能性を払拭できないことから、代表である升川建設と連携し、日立建機のダンプトラック運行管理ソリューションSolution Linkage Mobile(以下、SL-Mobile)の導入による『土砂運搬車両の見える化』を実施することとなった。
SL-Mobileは、スマートフォンや車載専用GPS端末の位置情報を活用することで、工事車両の位置把握や現場の管理業務を効率化するソリューションである。スマートフォンタイプは専用アプリを起動するだけで、車載専用GPS端末タイプは工事車両のシガーソケットに差し込むだけで利用できる。今回の現場では、各ダンプトラックの運転者がお互いの位置を確認できるようスマートフォンタイプを採択し、課題の解決にあたった。
このSL-Mobileの導入により、ダンプトラックの運転者および現場の作業員や管理者が、常に登録車両の現在地や運行ルートを確認できるだけでなく、事前に進入通知エリアを設定することでアラートが鳴り、ダンプトラックの到着タイミングを予測できるようになる。
Solution Linkage Mobile
運転者の安全意識向上と運用効率化に貢献
「今回のような他社と連携する現場では、大きな効果を感じることができた」と黒坂氏はいう。「以前、ほかの運行管理システムを利用したことがあったが、そのときには自社のダンプ管理が目的であったため、そこまで効果を感じることがなかった。しかし今回のように他社と連携した運行管理を必要とする現場では、自社以外のダンプの動きがわかるようになるため、安全面だけでなく、効率化や管理の面でも効果を感じることができた」と導入後の手応えを話す。
「特にSL-Mobileの導入は、安全面での意識向上につながった」と黒坂氏は続ける。「今回の現場ではナビのようにスマホの地図を確認しながら運転していた人はいなかったが、SL-Mobileがあることによって、自分の運行が管理されているということからも、安全に関する意識が高まり、結果として無事故で工事を終えることができた」と黒坂氏はいう。効率化の面でも、これまではダンプトラックの運行状況を把握する際は、購入土管理の担当者に電話で確認し、その都度ダンプトラックがどのあたりを走行しているかを尋ねる必要があったが、SL-Mobile導入時は管理画面を見ればよいので、確認作業にかかる時間を削減することができた。
ICT技術の可能性と地域を支え続けるための取り組み
SL-Mobileは最上川工事の事業責任者や発注者からも好評で、「次回も導入してほしい」という評価を得たと黒坂氏はいう。「今回の現場では、SL-MobileのほかにもMC機による法面整形やGNSSによる転圧管理、AR(拡張現実)技術による現場確認など、さまざまなICT技術を活用して施工した。便利な技術のため、今後もICTを活用したいと考えているが、費用の観点から導入ハードルが高いケースがあるため、実際には積極的に取り入れることができない現場も多い。また、ICT技術の扱いにも慣れが必要なため、新人の教育という課題もある。今後もスキルを持つ人材を育成しながら、コストの問題が解消する現場で積極的にICT技術を導入し、地域の安心・安全に寄与していきたい」
複数のICT技術を活用し、堤防をはじめとする地域の安心と安全に欠かせないインフラの整備に努める柿﨑工務所。最上地域の住民の暮らしを支え続けるため、同社の活動は今後も続いていく。