「世界中で稼働している建設機械に対して、 どこまでのことができるのか?」 ということを突き詰めて考え、 トータルのサポート力を高めていきます。
執行役社長兼CEO
平野 耕太郎
コロナ・パンデミックによる混乱が続く中で、ロシアによる ウクライナ侵攻が起こり、世の中の複雑さがますます進行し たように感じています。ロシア・ウクライナ危機の影響は、既 に当事国のみならず、エネルギー価格の高騰、金融市場の不 安定化、食料の安全保障など、さまざまな分野に波及してお り、私たちのビジネスにも大きな影響を与えています。
こうした変化を短期~中長期の両面から見つめ、何をしな くてはいけないのかを考え、実践していくこと、つまり「アジ リティ(機敏性)」のある事業運営というものが必要になりま す。
しかしながら、アジリティというのは、頭脳、ハート、体力、 これらがバランスよく揃っていなければなりません。これらが一つでも欠けてしまえば、社会変化の大きな渦に飲み込まれ てしまう、そうした危機感を強く感じています。それでも私たちにはこうした困難を乗り越えてきた歴史が あります。例えば、当社グループがまだ国内ビジネス中心だっ た 1990 年代を振り返ってみますと、アジア経済危機があっ て大変な打撃を受けたことがありました。
しかし、経済危機 によるダメージを逆に自分たちでコントロールしていかなけ ればならないという志のもと海外へと進出していき、アジア の代理店や工場の構築などネットワークを固めていきました。
このように当社グループには、逆境を糧にする「チャレンジ 精神」が組織風土として根付いているのだと自負しています。
当社グループの大きな変化の一つとして、2021 年度から の北中南米市場への本格的な独自展開の開始があります。北中南米は周知の通り、建設機械需要の約 40% を占める 世界最大の市場であり、またマイニング機械も多く稼働し ています。
例えば、欧州市場は、公共工事やビル、家など の建築に使用されるコンストラクションやコンパクト製品が 多く、マイニング機械の稼働数は限られていて、豪州では 逆に資源鉱山等で使われる大型マイニング機械の市場です。それらと比べ、北中南米ではすべての建設・マイニング機 械が活発に動いているスケールの大きな市場です。
しかしながら、私たちはこれまで、その北中南米で十分 にパフォーマンスを発揮できているとは言えませんでした。それは、1988 年の米国農機大手であるディア & カンパニー 社(以下、ディア社)との業務提携以降、製品の開発・生産 は我々が担っていましたが、販売やサービスはディア社を通 じて行っており、当社独自の販売・サービスを提供すること ができなかったからです。業務提携を結んだ当時は、製品 の性能や品質が良ければお客さまに満足してもらえる時代 でしたから、最初はそれでも良かったのですが、お客さま のニーズがモノからコトへと大きく変化する中で、独自にお客さまのニーズを捉え、機械の稼働情報を活用した製品・ 技術・サービスをタイムリーに直接提供する必要性が高まっ ています。
そこで、ディア社とは度重なる協議の結果、合弁 契約を解消するに至りました。2022 年 3 月からの北中南米への本格的な独自事業展開は、私たちにとって長年の悲願といえるものです。新しい扉 は開きましたが、これからが本番です。お客さまのさまざ まな課題に耳を傾け、解決策をチームで導き出していくこと が重要です。日立建機の従業員にはそれができると私は信 じています。
「Kenkijin スピリット」は、当社グループ共通の価値基準 であり行動規範となっているものです。Kenkijin スピリット が生まれたきっかけには、2004 年頃から当社の海外売上 が増加し、それに伴って外国籍の従業員の比率が増えてき たことがあります。日本市場が主で、日本人従業員中心で 仕事を進めていた時は、「細かい所は言わなくとも分かる」 というような暗黙知の部分が多くありましたが、海外の売上 高が 5 割を超え、外国籍従業員の比率もそれに近くなって くると、会議などをしても、日本人的な考え方だけでは一 定のコンセンサスに辿り着くことができない。ギクシャクし た関係を改善するために、言葉の壁を乗り越えて拠り所と なるような共通のキーワードの必要性を強く感じました。そ こで、国内外の従業員数十人、数百人が何カ月にもわたり 意見を出し合い、グローバル共通の心構えを「Kenkijin ス ピリット」という言葉で明文化したのです。 そ し て、Kenkijin ス ピ リ ッ ト を 貫 く 思 想 と し て、 「Challenge(チャレンジ精神)、Customer(個客志向)、 Communication(風通しの良さ)」という 3 つの「C」を定義しました。お客さまが抱える課題は、100 人に聞けば 100 通りあるように、お客さまが何を求めているのかにつ いてよく聞き、コミュニケーションを取って、課題解決に向 けチャレンジしていかなければなりません。ですから、こ の 3 つの C は一つひとつが単独で存在しているのではなく、 それぞれが関係し合って初めて Kenkijin スピリットが成り 立つというものです。 従業員一人ひとりがお客さまの立場に本当に立っているの かを常に自問し、3つの C を具体的なアクションに落とし 込んでいく。このことは日頃から発信していないと、なかな か組織風土として浸透していきません。例えば、Kenkijin セミナーという活動があるのですが、従業員から「私は調達 なので、お客さまと直接話をする機会がありません」という 質問があります。私はその時「Customer というのはお客さ まだけを対象にしているのではありません。あなたが日頃打 ち合わせをしている取引先の方々も Customer ですよ」と 答えています。このようにさまざまな機会を通じてメッセー ジを発信していくことが重要だと思っています。
さらに、2021 年度の大きな出来事として資本構成の変 化があります。これも北中南米事業と同じく、3 年ほど前か ら並行して進めていた話です。「北中南米における販売・サー ビスを自分たちの手で」という話は当然、日立製作所にも 話を通していましたが、実現するとなった場合は相当な資金 が必要となります。販売台数を伸ばすためには一定の在庫 が必要ですし、ファイナンスも重要です。工場の建設なども 考える必要があります。決断を速くして代理店やお客さまの 期待に応えていくためには、どのような資本構成が良いの か考え、日立製作所と意見交換を行いました。 そのような経緯を経て日立製作所から、伊藤忠商事(株) と日本産業パートナーズ(株)が出資する HCJI ホールディ ングス合同会社に、保有する 51%の株式のうち 26%を売 却するという方針が発表されました。HCJI ホールディング ス合同会社がなぜ日立建機に興味を示したかという大きな 理由の一つは、やはり北中南米事業がキーワードになっています。真っ白なキャンバスに日立建機が絵を描こうとして いる、そこに興味を持っていただけたわけです。当社グルー プとしても、建設・マイニング機械の拡販において重要な役 割を果たすファイナンス等について、伊藤忠商事(株)と北 米を中心として協業できる効果は大きなメリットとなります。 この資本構成の変化は、北中南米市場での発展をめざす私 たちにとってプラスに働くと捉えています。 ディア社との提携解消、資本構成の変化、この二つはた またま同じ時期に重なった別々の出来事ですが、私の頭の 中ではずっと一つのものとして結び付いていました。そして、 一連の変化の背景には、新車販売のみならず、サービス、 レンタル、中古車、再生、ファイナンスなどのバリューチェー ン事業を中心としたビジネスモデルへと変革させるという私 たちの目標があります。そして、なぜバリューチェーン事業 の強化をめざしているかと言えば、「お客さまの課題を解決 する」ためです。すべてがそこにつながっているのです。
当社グループの事業はエッセンシャルビジネス※であると いう基本的な認識に変わりはありません。
そして、私たち の建設・マイニング機械を使っていただいているお客さまも また、エッセンシャルビジネスに携わっておられる方々です。 ですから、私たちはお客さまがスムーズにビジネスをできる ように、売る、貸す、修理するということを真面目にやって いくということが最も重要になってきます。
私たちは「建設機械を見守る」ということを旗印としてい ますが、機械の故障が起こる可能性というのは、使えば使 うほど、古くなれば古くなるほど高まります。これをしっか り見守り続けていくためには、情報を得るシステムの開発で あったり、人の教育であったり、サポート体制の構築であったり、すべてをセットで考えなくてはいけません。これは非常に大変なことです。しかし、やめようとは思わないし、こ れからも続けていく。なぜなら、これこそが我々の使命だ からです。
今後はこれまで以上に、「世界中で稼働している私たちの 建設・マイニング機械に対して、どこまでのことができるの か?」ということを突き詰めて考え、トータルのサポート力 を高めていく必要があると考えています。そして、お客さま とコミュニケーションしながら、お客さまと一緒になって持 続可能な社会の実現のためにチャレンジをしていく。試行 錯誤しながらですが、着実に歩みを進めていきます。