米州独自展開を始めたこのタイミングで、Kenkijinスピリットを体現していくものとして、2022 年 4 月から組織をビジネスユニット制に再編成しました。これまでは開発、生産、調達、販売、サービスごとの機能別組織体制でした。これは効率の面では良かったのですが、「お客さまの考えていることが開発や生産に伝わっているのか」「我々のやりたいことをお客さまにタイムリーに説明しているのか」というと、物足りなさを感じることがありました。そこで、ビジネスユニットを基軸にして、ユニット長が開発から販売、サービスまでお客さまの声を聞きながら物事を決めていくという体制に変更しました。 お客さまのニーズが多様化している今、私たちの方からお客さまの仕事へと積極的に入っていかなければ、お客さまの求めていることが分からなくなってきます。ですから、お客さまのニーズを起点にする「個客志向」をより強めた組織体系にしていくということです。 一方この体制ですと、目先のことを追い求めがちになってしまいます。中長期での視点は役員がしっかりと見て、引っ張り上げていかなければなりません。それが役員の役割だと思っています。それぞれの部門の考え方や方向性がバラ ンスよくできているのか、効率的にお金を使えているのか、適材適所の人事配置ができているのか、そういったところを注視していきたいと考えています。

当社グループは 2016 年度からバリューチェーン事業の強化方針を打ち出していますが、その方向性は現在も変わらず、2022 年度中にバリューチェーン事業の売上収益構成比率を 50% 以上にすることをめざしています。そして、この目標を達成するためには、北中南米での展開が欠かせないと考えています。例えば、日本、欧州、アジアなどのお客さまへ提供している ConSite という機械の稼働状況を把握するサービス・ソリューションがありますが、これが北中南米でも普及していけば、より多くのお客さまの稼働状況をデータとして取得することができるようになります。そのデータを応用して、ConSite をさらに進化させていくという好循環ができます。さらにレンタル、中古車、部品再生といったサービスを成長させることにもつながってくるでしょう。 私が今考えているのは、建機の寿命をコンディション良く延ばしていくというプランです。例えば、日本で 5 年間レンタルとして使っていただいた機械を中古車として買い上げて、アメリカで中古車として販売する。再生部品を利用しながらさらに 5 年間使っていただいて、今度は中南米など新興国のお客さまに再生中古車として販売する。メーカーの強みを活かして、ただ修理するだけでなく機能をアップさせることで、10 年間で廃棄されていた建機が 15 年間使えるようになる。私たちとしてもその間、お客さまへのサービスを継続することができるようになるわけです。 また 2021 年度には、従来行ってきた部品の再生だけでなく、台風の洪水で水没した油圧ショベルをお客さまから引き取り、車体全体を再生する新たな取り組みも始めました。これは、非常に面白いアイデアだと思いますが、こうした発想は、現場に近いところで常日頃からアンテナを立てていなければ生まれてきません。これらの活動がさらなるバリューチェーンにつながり、お客さまへの幅広いソリューションやサービスの継続的な提供を可能とします。 日立建機の建設機械は今、全世界 100 カ国以上で約 30万台が稼働していますが、建設機械の長寿命化により、多くの建設機械が現役で稼働することができます。サーキュラーエコノミー(循環型経済)を見据えた環境問題への対応などを考えてみてもメリットがあり、新車・中古車・レンタル機それぞれのメリットを享受しつつ、お客さまは建設機械をより長く効率よくご活用いただけます。私たちとしても、競合メーカーとの差別化を図るポイントにもなります。  サーキュラーエコノミーを見据えたバリューチェーン事業の売上収益構成比率という指標は、単に業績の面だけでなく、お客さまや社会が当社グループのことを認めてくれているということの証になると考えています。そういう意味では、2021 年度時点で 40% ですから、まだ少し力が足りません。北中南米でしっかりと事業展開することで、この比率が50%に近づいていきます。我々とお客さまが一緒になって、お客さまの課題のみならず、社会の課題を解決していくことが重要なポイントだと思っています。

組織の課題で言うと、やはり考えなくてはいけないのはダイバーシティ& インクルージョンです。当社グループは 30 カ国以上の従業員が在籍しており、女性管理職も増えてきているので、一見すると人財の多様性が進んでいるように感じられます。 しかし、その多様な人財を生かし切れているのかというと、見直さなければならない部分が多いのも事実です。具体的には、個人の能力や責任をもっと高めていく必要があると考えています。また、アイデアがあっても萎縮してできない、ということでは組織の成長につながりません。 ですから、ダイバーシティだからと言って単に目先の数・割合だけを追うのではなく、いかに人と人の関わりの中で成長を促していくか、つまりコミュニケーションの本質を追究していく必要があります。 こうした考えから、今年から年 1 回、各地域の責任者と必ず会ってコミュニケーションを取ることにしています。当社グループには 3 万人近くの従業員がいますが、私の考えていることをしっかりと現場に伝える、私自身も現場で起 こっていることを知る、ということから改めて取り組み、人財の多様性を生かす本当の意味での「風通しの良さ」を根付かせていきたいと考えています。