「現場」、そして「信頼」をモットーに「豊かな大地、豊かな街を未来へ」を実現します。
執行役社長兼COO
先崎 正文
2023年4月1日付で代表執行役執行役社長に就任いたしました先崎正文です。私たちは今、昨年来の資本関係の変化に加え、米州の独自展開再開という、まさに「第2の創業」にあります。
その好機を背景に、私たち自身の手で未来を創っていくという思いを強くしています。
昨年度は専務COOの立場で当社のグループアイデンティティ策定や中期経営計画の取りまとめを主導し、その中で当社のサステナビリティやCO2削減についての方向付けも行ってきましたので、社長就任の打診があった時、気持ちのうえでの準備はできていました。
私は製造部門の経験が長く、現場を常に重視してきました。組み立て工程一つをとっても部品がきちんと揃っており、その部品が品質良くできていなければなりません。現場を訪れると、良い点ばかりでなく、作業のしにくさであるとか、これでは良いモノはできないといった、不良や安全に対するリスクも見えてきます。
営業部門に移ってからも、世界中にある50を超える販売拠点のほとんどに足を運んできました。営業の現場では、お客さまに当社のサービスをきちんとご提案し、それが納得いただけるからこそ、契約の運びとなります。さまざまな方とお話をすると、お客さまに認められていただけていないことや不満が多々あることが分かってきます。その裏返しが我々スタッフの課題となります。大切なことは、お客さま、そして代理店の信頼を裏切るようなことは絶対にあってはならないということです。
このように、現場が「ここにも来てくれたか」と思うほど、広く多くの最前線に出かけていきます。職制や組織を通じて上がってくる情報だけに頼らず、現場、それも責任者というよりは先端の声が聞きたい。特に経験が長い製造現場では、そうした気持ちが一層強くなります。これからも、お客さま、代理店にも足しげく通っていきたいと思っています。
現場にはすべてのエッセンスがあります。そして、現場の一つひとつの動作がいかに効率良く、お客さまに認められ信頼されるような形になっているかを全力でサポートするのが、私を含め間接部門の役割だと考えています。現場というすべての源に全員が向き合い、全精力を注いでいくことこそが、やるべき経営スタイルであると信じています。「現場」、そして「信頼」の2つが、私のモットーです。
当社は「北中南米(米州)事業の独自展開」「資本構成の変化」により、「第2の創業」へと大きく舵を切りました。
この機会に改めて「日立建機とはどのような会社なのか」を掘り下げました。当社の存在意義を明確にするため、社内の各層でのさまざまな議論を経て、2022年12月に「グループアイデンティティ」を策定しました。当社がめざす姿 を「継承」と「進化」の2つのキーワードでご説明していきましょう。
私たちのありたい姿(ビジョン)「豊かな大地、豊かな街を未来へ」は変わるものではありません。これが「継承」にあたります。当社には、70年以上にわたり、お客さまの要望に応じて建設機械を丁寧につくってきたという強みがあります。この強みもしっかりと継承していきます。他方で、お客さまが望んでいるのは、機械そのものを提供されることではなく、それによってお客さまが必要とされている工事などを実行していくことと考えています。したがってお客さまにとっての安全性の向上や機械のライフサイクルにおけるコスト削減などに寄与することにより、お客さま自身のアウトプットや生産性向上に深くコミットし、お客さまのニーズを満たす解決策をきちんと提供していくこと、すなわち私たちがソリューションプロバイダーになることを、私たちの使命(ミッション)と定め直しました。ハードを提供するだけでなく、“提案していく”メーカーとなっていくことを宣言したのです。
この「進化」を成し遂げるため、製品の技術力はもとより、ソフトウェア技術も含めたアジャイル型※の開発対応やDX対応が当然必要となってきます。これらをトータルに提供できる体制を築くことも私たち自身の変革になります。これらの「継承」と「進化」の取り組みを通じて、新たな価値を創造し、安全で持続可能な社会の実現に貢献していきます。
※ アジャイル型:短い期間でテストを繰り返しながらスピーディーに行う手法
「継承」と「進化」をグローバルに浸透していくためには、その実現を担う、新たな人財像が必要であると考えました。
そこで、当社グループ共通の行動規範として2008年に策定した「Kenkijin スピリット」も併せて見直しました。
社員一人ひとりの心の拠り所を確認していく作業なので営業、製造、開発、間接部門など7つのグループに分け、それぞれが自らの事業の中で何を重要視しているかをディスカッションし、個別にまとめていくという方法を採りました。
すると不思議なことに、話が進むにつれて7つのグループとも最終的に「Challenge、Customer、Communication」という3つの言葉に集約されていったのです。「Kenkijinスピリット」として脈々と培われてきた心構えが、「進化」を遂げつつ「継承」されてきたことを、改めて感じました。こうやって再編集した「Kenkijinスピリット」を、「私たちの行動規範(スピリット)」として、グループ アイデンティティの中で、正式に位置付けることとしました。
これからは、“未来は分からない”を大前提に置くべきです。その時に必要なのは、社会環境の変化に反応するスピード、そのスピードを支えるフレキシブルさ、そして、“これをやらなければならない”というブレない構えです。このベースとなるのがまさに3つの「C」で、これが従業員の腹にもっと落ちていくスタイルに出来上がれば、スピードもフレキシブルさも増していくに違いないと考えています。
米州の独自展開は非常に順調で、私たちの想定をはるかに上回る期待をいただき、強い追い風を受けていると認識しています。これに対して当社の生産能力や必要とされるスペックで対応しきれていないのが現状で、良い意味でのプレッシャーを感じています。
この局面で思い出されるのが、20年あまり前の欧州での体験です。
日立建機は当時、日本、アメリカ、ヨーロッパの三極体制で展開しており、ヨーロッパは伊・フィアットの農業機械・建機部門であるCNHグローバルとの合弁で事業を行っていました。しかし、事業戦略の違いから、2002年に合弁を解消し、当社独自で展開することになりました。私は、合弁解消後の欧州展開の生産拠点となるオランダのアムステルダム工場を立ち上げるため、現地を頻繁に訪問していました。
欧州事業の先行きに私自身は大きな不安を感じていましたが、ふたを開けてみると、有力代理店が当社のモノづくりと品質を信頼して契約を申し出てくれるなど、状況は好転していきました。当時、現地で目の当たりにした追い風を今でも良く覚えています。
米州展開においても、2001年にディア社に販売権を移譲したことが、独自展開につながっています。今回も、「このような機会を20年間待ち望んでいました」というお言葉を頂くほど、オレンジ色の機械に対する信頼は厚く、言葉に表せないほどの心強さを感じています。
この2つの出来事に共通するのが、当社が長年築き上げてきた、モノづくりとブランドへの信頼であり、それらを支えてきた「Kenkijinスピリット」です。この基盤のうえに「豊かな大地、豊かな街を未来へ」を実現し、さらなる持続的な成長を遂げていきたいと考えています。
当社の売上の80%以上が海外からであることを考えれば、現地の状況に精通していなければ、何もできません。それには、ローカルのメンバーがもっともっと活躍できるような場が必要となります。そのような意味からも、本社の中における国境の高さをぐっと低くしていきたいと思っています。
建設機械のリサイクル率は95%くらいに達していると認識しています。製品の素材はほとんどが鉄です。より再生しやすい構造や素材への変更など、さらに突き詰めていく余地が残されていると感じています。
一方、スクラップ後のリサイクルだけを軸に考えるのではなく、長く使用することにも取り組んでいます。建設機械の遠隔監視ソリューション「ConSite」や部品再生、本体再製造を活用することで、本体稼働年数を長期化するのです。これにより、廃棄物の削減や投入資源量の抑制により、最終的にCO2削減につなげていきます。これこそが、サーキュラーエコノミーとカーボンニュー トラルを組み合わせることができるメーカーならではのCO2削減であると考えています。
カーボンニュートラルに向けてのもう一つの取り組みが、マイニングにおけるフル電動化です。鉱山で使用される大型ダンプトラックを、登坂路では車体上部に搭載されたパンタグラフから電力を取り込んで走行させ、架線を設置していない場所ではバッテリーで走行させるという、世界初の取り組みを実現しようとしています。まさに、「豊かな大地、豊かな街を未来へ」を具現化した取り組みであると自負しています。