特集Vol.125(2018年10月号)

日本の森林面積は国土の3分の2にあたる約2,500万ha。森林資源は人工林を中心に現在約50万haの蓄積があり、世界有数の森林国だ。その人工林の半数以上が11齢級(51〜55年生)以上の利用期を迎えており、資源の有効活用とともに次世代に向けた再造林が必要である。

一方で、森林のある地域に所有者が不在の場合や世代交代などで所有者の特定が難しい森林も多く存在し、このため意欲ある者が複数の所有者の森林を取りまとめるのにも多くの労力がかかっている。

こうした状況下、森林施業集約化の一層の推進に向け、ITの活用、所有者や境界の明確化に向けた取り組みによって森林経営計画の作成を促進する動きも出てきた。林業従事者は総体的には減少しているものの近年は下げ止まり、全産業平均と比べると高齢化率は高いながらも若年従事者率は上昇傾向で推移、平均年齢も若返り傾向にある。

豊富な資源をもとに若年従事者を受け入れながら林業ビジネスを活性化させるカギはどこにあるのか―。

齢級:
森林の年齢を5年の幅でくくった階級。
林齢1〜5年生を1齢級、6〜10年生を2齢級、以下3齢級……と称する。
林業ビジネス活性化のカギ

林業ビジネス活性化のカギ 林業をビジネスとして成功させるカギはIT×機械×人材活用によるスケール拡大

有限会社杉産業 Facebook
【岡山県新見市】

「iLoggerバリューバッキング」導入事例

生産プロセスのボトルネックをITや機械化でいかに解決するか

専務取締役 杉光太郎氏

専務取締役

杉光太郎氏

会社員時代、帰省のたびに地元から人が出て行っているのを目の当たりにしていた。

何とかしなければ……

その思いが事業を承継する決断を促した。

岡山県新見市は、総面積の86%を森林が占める。うち85%の民有林を対象に、約200名の山の所有者から皆伐や間伐などの管理委託を請負う杉産業。生産する主な樹種はスギとヒノキだ。

専務の杉光太郎氏は、東京で自動車メーカーの研究開発部門に在籍した後、8年前に新見市へ戻り家業を継いだ。

「当時は社員3名。周辺も小さな林業家ばかりでした。これからは人数を増やし、積極的にITや機械の導入を進めて規模を拡大させ、地域の林業全体を活性化させることがビジネスとして成功させるカギだと感じた」(杉専務)

木を倒し、集め、切って、運ぶ……この生産プロセスのボトルネックは何かを見極め、それを効率化するためにいかにITや機械を導入していくか。

例えば区画内の樹木の直径を1本1本測定する「毎木調査」。同社では国内で初めてブルートゥース対応のデジタル計測器を導入し、計測データは1本ごとにスマートフォン(スマホ)に送られ、記録が蓄積される。それをクラウド上にアップ、事務所のパソコンからアクセスしてデータを収集し、手元で材積計算を行っている。

従来は2名が、地面から1.2〜1.3mのいわゆる木の胸高直径を測り、傍らで1名が帳票に記録する3名作業だった。しかもその記録値は、事務所に戻ってパソコンに入力する二度手間のほか、入力ミスも発生。また帳票は紙のため雨天は実施できなかった。それが現在では1名で行え、計測精度もアップ、調査日数もコストも半減した。

「しっかりした材積計算ができることで、山の所有者に対して正確な見積もりで還元プランを提案できる。しかも細かな作業項目を提示することで所有者からの信頼も得やすい。伐倒でいくら、集材でいくら、採材でいくら、運搬でいくら、急峻斜面の場合は追加費用がいくら……というように。“木が何本でいくら”といった大雑把な見積もりが多いなか、作業項目を細かく提示していた京都の森林組合などを参考に見積書を考案した」

ブルートゥース対応のデジタル計測器で毎木調査を効率化。データはスマホからクラウドを介して事務所のパソコンと連動。精度の高い材積集計をもとに、山の所有者に還元プランを提案。

木材1本が最大価格になるシステムを搭載して収益力向上

昨秋導入したZX135US-5Bハーベスタ仕様機、および機械に搭載されたシステム「iLoggerバリューバッキング」も、採材の付加価値を高めることで収益力向上に役立っている。

林業先進国フィンランドの「ワラタ社」製のこのシステムは、木材市場での取引価格をあらかじめ入力しておくと、1本あたりの木が最大価格になるよう、最も高く取引される条件の径と長さにハーベスタを制御して採材プランを自動で算出するシステムだ。

同機のオペレータを務める国本峻氏は、もともと建設機械を扱う会社からIターンで杉産業に入社した1人。

「ハーベスタで木をつかんだ際、まず目視で品質を見極め、A材、B材、C材のどれにあたるかを判断してボタンを押せば、自動で直径を測り、その直径に対して取引価格が最も高い長さにハーベスタが送材します。その後にカッティングボタンを押せば、最も付加価値の高いプランで自動採材してくれます。加工精度も高く、導入前は市場の相場価格表をキャブ内に貼っておいたり、頭で記憶しながら手動でハーベスタを操っていましたが、その負担も軽減されました」(国本氏)

材積集計と実木との誤差は±2%。月に1度の割合で、採材した丸太の長さと直径をデジタル計測器で確認測定、「iLoggerバリューバッキング」システムと同期させてキャリブレーション※1を実行することで高い加工精度を継続保持している。国本氏の林業歴はまだ1年ほどだが、同システムはオペレータの知識向上や技術格差解消の利点ももたらしている。

※1キャリブレーション:
計測器の精度を保つために、実寸と差がないか確認し微調整する作業。
ZX135US-5Bハーベスタ仕様機
カラーマーキング機能

オプションのカラーマーキング機能は、カッティング時に指定したインクを噴霧することで、丸太の仕様を一目で見える化。本来は手作業で行うが、自動化することで仕分け・運搬の効率化を図っている。

現場の生産性を上げるとともに出荷先拡大で取引単価も高める

8年前に杉専務が故郷へ戻った時は2,000m³/年だった同社の出荷量は、いまは7倍の1万4,000m³となった。社員も当時の3名から現在は12名。それもオペレータをはじめ、さまざまな業務に携われる“多能工”として人材育成をしている。

「人材確保は、U・Iターン説明会などに積極的に出向いたり『緑の雇用』※2の講師から情報を得たりなど、いろいろな人との繋がりを活かし、Iターン人材も多く迎え入れています。Uターン組は故郷に林業もある、農業もある……と考えますが、Iターン組は林業がやりたくてここを選んで来てくれた人たち。それだけに、ビジネスとしてきちんと成立させていく責務があります。いまは木材市場への出荷が多いですが、製材所との直接取引も開始しました」

このほか、2年後に新見市内で稼働が予定されているバイオマス発電施設での燃料として活用するための素材生産も視野に入れる。

「ITや機械化によって社員には生産性を上げてもらい、私自身は木材市場以外の出荷先を開拓することで取引単価を上げることに注力していきます。規模の拡大とともに林業を成長産業化させていくことで、森林資源が豊富なここ新見市の地域活性化に貢献していければと考えています」(杉専務)

※2緑の雇用:
林業事業体に採用された人に対し、講習や研修を行うことでキャリアアップを支援するという制度
採材した丸太の径と長さをデジタル計測器で測って加工精度を確認

月に1度、採材した丸太の径と長さをデジタル計測器で測って加工精度を確認の上、キャリブレーションを実行。

木材市場の価格データをシステムに入力しておけば、ハーベスタで木をつかんだ後に採材プランを表示。自動で送材し最大価格となる長さと直径で切断する。製材所からの注文材(樹種/長さ/径級)への対応や本数指定もできる。

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メンバーシップ制度で若手の林業経営者を支援

メンバーシップ制度で若手の林業経営者を支援

杉産業にこれまで「iLoggerバリューバッキング」を含め、10台以上の林業仕様機を納入してきた同社では、周辺の林業経営者を応援するメンバーシップ制度「富士フォレストサポート」を設置、メンバー価格の林業機レンタルや情報交換会、講習会、販売時のファイナンスサポート、中古林業機械の販売、買取りなどを行ってきた。

「当社の主要商圏である岡山県北部や鳥取県南部地域は伐採時期を迎えた森林が多く、林業経営者たちは民有林所有者に対して適正な還元プランを“見える化”して提案することで、意欲的な取りまとめを行ってきている。その結果、収益体質を改善する林業者も増えてきた。杉産業さんは、自社のことだけでなく地域の林業全体を見据え、林業の位置付けを模索しながら常に高い次元で林業ビジネスを考えている。今後も応援していきたい」

[日立建機日本 販売店]

富士岡山運搬機株式会社

建車グループ 取締役 営業部長

本田裕二氏

本田取締役。同社では日本最大級となる中古林業仕様機の販売サイトも運営。

URL:http://www.fuji-group.com/used/index.php

林業ビジネス活性化のカギ 林業を機械化で支えてきた日立建機のハーベスタ+採材システムという提案

長年、開発・提供して磨き上げた高性能林業機械への適応力

日立建機日本 顧客ソリューション本部 産業ソリューション部 農林グループ 営業主任 野口和也

日立建機日本 顧客ソリューション本部

産業ソリューション部 農林グループ

営業主任

野口和也

日本の林業と世界の林業を熟知した林業機械のエキスパート。

1980年頃から日立建機では、油圧ショベルをベースマシンとした林業仕様機のラインアップを揃えてきた。林道開設、切出し、集材、運搬など、林業の現場ではさまざまな専門作業が求められる。その現場に最適な10tクラスを中心に、大型足回りの採用や最低地上高のアップ、キャブ前面ガードやエンジンメッシュガードなど40年にわたる知識や経験を踏まえ、林業を知りつくした日立建機ならではのアイデアが林業仕様機に投影されてきた。

さらにはアタッチメントとのマッチング。ベースマシンとなる油圧ショベルの大きな役割は、グラップル、プロセッサ、ハーベスタなどのアタッチメントの性能を最大限に引き出すことだ。他社製でさまざまな特性のあるアタッチメントに対応し、その性能が発揮できるよう林業仕様機をつくりあげてきた。これも長年のノウハウから導き出されるものだ。

なかでも伐倒から枝払い、測尺、玉切り、といった一連の作業を1つで行える「ハーベスタ」との組み合わせは、林業の生産性を向上させる高性能林業機械の1つだ。そのハーベスタをプログラムソフトによってシステム制御し、効率的な生産を実現させるのが、前ページでも紹介したフィンランドのワラタ社製「iLoggerバリューバッキング」である。

外国製アタッチメントは日本の林業に合わない?……を覆す

入社以来、林業機械の開発、普及に関わってきた日立建機日本の野口和也は、「iLoggerバリューバッキング」を「日本市場にマッチさせたハーベスタ制御システム」と胸を張る。というのも、これまで海外から持ち込まれた林業アタッチメントは日本の林業現場には合わないと言われることが多かったからだ。

「北欧などの林業先進国で設計製造されているアタッチメントの性能は高い評価を受けています。しかしソフトが日本向けに対応しきれていなかったり、輸入業者が調整をせずに提供してきたことがあったのです」(野口)

たとえば伐倒した木がどこまで商品にできるかは、木材として使われる「材積」によるが、その材積集計方法が北欧と日本では違う。この違いを適合させる調整がほとんどなされていなかったのだ。これに対し、「iLoggerバリューバッキング」は日本市場向けに調整された新しい採材システムである。

さらに加工精度を高めるキャリブレーション。iLoggerに入力されたデータをもとにハーベスタで採材を一気に行う。その後、実際に採材された実木を測り数値を確かめる。その誤差を少なくするための細かな調整がキャリブレーションだが、加工精度の確認だけでなく、同じ樹種の木でも採地や季節によって皮の厚みなどが変わってくることに伴う誤差調整でもあるのだ。

林業先進国フィンランドでは、キャリブレーション後の材積集計と実材との誤差は±2%以内と決められている。「iLoggerバリューバッキング」システムもこれを基準とし、日本国内での使用でもその精度が実績として証明されつつある。

「±2%という数字を聞くとみなさんが驚き、評価してくださいます。材積計算は、熟練の林業家がメジャーを用いて1本1本測り、卓上で計算していることが多いのですが、過去の海外製品のデジタル測量器で測った数値と実績との整合性は70%程度でしかないと聞いたこともあります」

送材が速く、枝払い能力も高い日本の林業にも最適なシステム

林業プロセスを効率化して生産性を上げ、1本の木から得る利益を最大化する「iLoggerバリューバッキング」。詳述するとiLoggerのモニタには、まず伐倒後のファーストカット時に、その木に最適な採材プランが提示され、最初の玉切りの長さに達すると、過去の木材情報から全木の長さを予測し、採材プランを自動更新して利益の最大化を図る。また用途別に複数の価格設定できるので、樹種や用途が変わってもフレキシブルに最適な採材プランを導いてくれる。

樹木は葉先にいくにつれ細くなるが、たとえば樹木の直径が22pで6mの長さで玉切りできると予測したが、指定した直径に満たない場合は、次に高く売れる3mで切りにいく。1本の木の価値をオペレータの技量にかかわらず、常に最大化できるのだ。もちろん、玉切りする長さはオペレータの判断で変えることもできる。

「送材スピードが速く、枝払い能力も高く、さらに速く動いても長さの誤差が非常に少ないです。まさに日本の林業を熟知し、最適な採材ができる林業システムのパッケージなんです」と野口は胸を張る。

写真はワラタ社製のハーベスタを装着し、iLoggerバリューバッキングシステムを実装したZX135US-5B林業仕様機。林業ビジネスの活性化への貢献が期待できる。

林業機械オペレータの育成にも貢献する採材システム

野口は、さらに「iLoggerバリューバッキングは人材育成に大きく貢献できる」と語る。たとえばiLoggerが提示した採材プランと若手オペレータが想定したプランが異なった場合、iLoggerがなぜそう判断したかを考えることで、「仕事の付加価値を最大化する意識がつく」はずだと。

日立建機日本では「iLoggerバリューバッキング」の普及に加え、オペレータ育成のために専用シミュレータのレンタル提供・販売も行っている。

「山での作業は危険を伴います。まずシミュレータでオペレーション技術を習得することで、現場の安全性向上に貢献するだけでなく、優れた林業機械オペレータの育成につながると考えています。“優れたオペレータ”とは単に機械を操作できるだけでなく、プロセス全体の最適化を考えながら、周囲の作業者に対しても的確な指示を与えることができる人材です。

森林資源が豊富な国にとって林業は、本来安定した収益を得られる産業です。その当たり前を実現させるため、林業家の方には『iLoggerバリューバッキング』をどんどん使いこなしていただきたい。データが集まれば集まるほど、より使いやすい機械に進化するはずですから」

ハーベスタのシミュレータ

ハーベスタのシミュレータ。椅子と机さえあれば、すぐにハーベスタ操作を体験できる。森林組合での育成研修や林業大学校での利用が始まっている。

林業ビジネス活性化のカギ 高性能林業機械とICTを駆使した強固なサプライチェーンで日本の林業を成長産業に

日本の林業は外材に押されたわけではない

鹿児島大学 農水産獣医学域農学系 農林環境科学科 森林計画学 教授 寺岡行雄氏

鹿児島大学 農水産獣医学域農学系

農林環境科学科 森林計画学 教授

寺岡行雄氏

ICT林業、バイオマスエネルギー、低コスト林業、竹林管理、持続可能林業経営など専門分野は幅広い。鹿児島県森林審議会委員、木質バイオマス利用研究会々長などの要職も務める。

日本の林業を語るとき、いつも使われるのが「日本の林業は安い外材に押されて苦しんできた」という言葉です。しかし、これには大きな誤解があります。実際のところ、特にスギに代表される国産材は安いにも関わらず、十分に木材として使われていません。

人口減といえども住宅市場はまだ大きく、木の家に住みたいというニーズも多く、マーケットも十分にあります。でも、まだまだ国産材が使われていません。最大の原因は“木を切って出す”ことに注力してこなかった日本の林業の業態にあります。

かつて日本は木材不足でした。昭和20年代、家を建てようと思っても、木が薪や木炭などの燃料として使われていたため、木材が不足していたのです。日本中いたるところに、はげ山や砂漠地があり、当時の農林省(現農林水産省)大臣が「国有林を切って提供できないか」と国会で訴えたほど、日本には戦後の復興に向けて高まる需要に対応できるほどの木がありませんでした。しかも外材を輸入する資金もありませんでした。

そこでとった政策が拡大造林でした。拡大造林とは従来の天然林に代え、より成長の速い(拡大する)スギやヒノキなどの針葉樹を植林することです。こうして日本では、昭和20年代から平成の始めまで植林をして育て、日本中に1,000万haの人工林を増やしました。

日本の林業は強い輸出産業になれる可能性がある

高度成長期を通じて主要エネルギーが石炭、石油の時代になって木は燃料として使われなくなりました。蓄積された森林資源は人工林を中心に約50億m³にもなり、林野庁のデータではその3〜4割が伐採できる状態になっています。あと2年もすれば5割を超えると言われています。現在、国内で切り出される木が3,000万m³ありますが、それを切り出してもまだ毎年1億m³ずつ蓄積されている。自給しても余るのが日本の森林資源なのです。

世界的にも、日本のように豊かな森林資源をもっている先進国は少ない一方で、木を欲しがる国はたくさんあります。実際に九州の木材は韓国、中国などに輸出されています。きちんと木を切り出せれば、インパクトのある輸出産業になるはずなのです。

しかし、これまでの林業は育てることがメインで、木材をどのように生産して、どこへどのように売っていくか、さらには買ってもらえる仕組み作りといったビジネスとして成立させるための議論が発展する前に世代交代が進みました。

しかもずっと補助金がついてきたので、ビジネスというより一種の公共事業のような業態が続きました。もちろん、需要はあるので切って出してはいました。木材価格のピークは1980年代が1m³あたり2万〜2万5,000円でしたが、現在は1万円前後。この価格は世界中あまり変化しておらず、価格が下がった場合を見据え、生産性を高める工夫が必要です。

売るのは丸太ではなく売れる木の「情報」

欧米から高性能林業機械が入ってきていたので、日本の林業も生産性を上げることはできたはずです。しかし、欧米と同じようには使われていなかった。たとえば、ハーベスタに木の直径を正確に測ることができるシステムが搭載されたものがあります。でもその有用性を、日本の林業家や林業機械輸入業者にうまく伝えきれていなかった。というのも、売れるサイズを想定して切るというより、きれいに枝払いや玉切りができれば十分と考えていたからです。

欧米では、需要者がどんな木を欲しがっているかが現場でわかるようになっていて、それに応じた生産ができます。しかもどのメーカーの機械でも情報共有できるよう、通信のプロトコルまで統一しています。川上から川下まで、高性能林業機械とICTを使った強固なサプライチェーンマネジメントができているのです。つまり欧米の林業家は木ではなく、木材の「情報」を売買していると言えるでしょう。一方、日本では丸太を切り出し、売った時点で情報が切れていてマーケットニーズとは関係なく、過去の経験から見込みで切ってきたのです。そのため、市場に出しても売れずに買い叩かれることすらありました。

しかしいま、「情報」を組み合わせることによって森林資源の利用方法やその価値が大きく変わっていく可能性があるのです。キノコの産出を除き、日本の林業の年間産出額は現在2,500億円ほどになります。しかし、切り出した丸太が製材所にいくとその5倍、その先の住宅産業にいけばさらに10倍くらいの市場になるほか、製紙市場も含めれば数兆円になります。近年は高層建築にも使える直交集成板のCLT(Cross Laminated Timber)が実用化されつつあり、新素材セルロースナノファイバーなどの新しい市場も期待されています。

人口減少が進む日本ですが、市場拡大の可能性は高いのです。さらにICTを活用した高性能の林業機械を導入し、サプライチェーンのスマート化、見える化が進めば、農業の6次産業化(食品加工・流通販売にも業務展開している新しい経営形態のこと)と同様に高収益産業に変わる可能性があります。特に日本版GPSである準天頂衛星の活用や、高度なレーザー計測技術は、森林資源の見える化を大きく進めます。どんな地形のところにどんな樹種の木があるか、1本1本が正確に把握でき、ドローンを使って生育状況を把握する技術も進化しています。さらには、林道など路網の整備も進んでいます。一方で、製材所の大型化や生産者の集約化も進みはじめています。より低コストで安定した木材流通の仕組みが生まれています。またIoTを使った作業員の生体情報や林業機械のモニタリングも可能になり、より安全な作業ができるようになっていきます。

私がとくに機械メーカーの方に期待しているのは、マーケットと連動した高度なICT林業機械です。稼働の様子を見せてもらった「iLoggerバリューバッキング」にはその期待があります。さらに安全性を高めた機械の開発をはじめ、最終的には山に人が入らずに木が切り出せることが実現できれば、林業は大きく変わります。それは林業だけでなく、地域社会の活性化や再生につながるはずです。そのためにも日立建機をはじめとした、機械メーカーの取り組みに大いに期待しています。

高性能林業機械:
従来のチェーンソーや刈払機等の機械に比べて、作業の効率化、身体への負担の軽減等、性能が著しく高い林業機械。たとえば、プロセッサ、ハーベスタ、フォワーダなど。

林業“知り得”WORD

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木質バイオマス熱利用・熱電供給

木質バイオマス熱利用・熱電供給

木質バイオマス熱利用・熱電供給

エネルギー変換効率の低さから、採算的に規模の大きさが求められる「発電」に比べ、小規模設備でも80%程度のエネルギー変換効率を実現する木質バイオマス熱利用・熱電。少ない初期投資で導入しやすいことから、地域熱供給や公共施設、温泉宿泊施設、温水プールなどを中心に活用が始まった。木材チップやペレットなどの用途拡大で林業家の出荷先拡大にもつながる。

URL:http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/riyou/171109.html

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新・森林管理システム

新・森林管理システム

林野庁が打ち出した新しい森林管理経営法。経営管理が行われていない森林については、市町村が森林所有者から経営権を受託し、意欲と能力のある林業経営者に再委託することで、森林の経営・管理を集約し林業の生産性を高めていく狙い。また荒廃した森林の整備促進を目的に、2024年度頃に森林環境税(1人あたり1,000円/年の税負担)も導入予定。税収使途は、森林や作業道の整備、人材育成、林業機械の購入などが考えられている。

新・森林管理システム

URL:http://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/keieikanri/sinrinkeieikanriseido.html

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セルロースナノファイバー(CNF)

セルロースナノファイバー(CNF)

セルロースナノファイバー(CNF)

樹木を原料にした次世代素材。世界最先端技術によって木質繊維をナノメートルサイズまで細かく解きほぐす。直径は髪の毛の1万分の1。鋼鉄の5分の1の軽さながら強度は5倍以上。次世代マテリアルとして薬品、靴、文具、自動車、電子機器など各産業で利用が見込まれている。これまで未利用だった木材の使途が広がり、今後は付加価値のある素材となって様々な製品に生まれ変わる。

URL:https://www.env.go.jp/earth/ondanka/cnf.html