拝啓 現場小町Vol.125(2018年10月号)

拝啓 現場小町

取材・文/中村美砂子(モック社) 撮影/倉部和彦

庭は安らかな心を取り戻す場所極楽浄土の再現に魂を込める

庭匠 風玄 東京庭師

堀内千恵さん

http://www.fu-gen.jp

庭造りの現場に惹かれて職人の世界に飛び込んだ

藍染め 半纏 ( はんてん ) に地下足袋の小粋な作業着に身を包み、炎天下でも黙々と庭造りに向き合う。その姿は「ザ・職人」だが、インタビュー時は、ふわっとやわらかい笑顔を見せる。

堀内千恵さんは、日本を代表する作庭家・北山安夫氏に師事し、庭造りを学んだ女性庭師だ。 

後に独立し、兄弟子だった深津晋太郎さんと結婚。同時期に二人で「庭匠 風玄 東京」を立ち上げ、現在は個人邸や料亭、寺社などの庭造りや管理を行っている。

前職は、庭造りとはまったく関係ない、会社勤めのOLだった。そこからなぜ、どんなきっかけで「庭師」という仕事を選んだのだろうか。

「テレビのドキュメンタリー番組で親方(北山氏)の庭造りを見て深く感銘を受けました。樹木や石と向き合い、対話し、百年先、二百年先を見据えて庭を造る仕事に惹かれ、しかもその現場に若い人たちがたくさんいることも意外でした。そんなすごい庭を造る仕事には、熟練の職人さんしか携われないと勝手に思い込んでいたんですね。私はどうしてもその庭を見たくなって、すぐさま現場だった京都の高台寺を訪ねました」

そのとき、幸運にも北山氏と話をすることができ、その場で北山造園への弟子入りを決意。以来4年間、北山氏のもとで厳しい修行を積んだ。

石を据えるとき、どの角度が最も良いか“石に聞く”

石を据えるとき、どの角度が最も良いか“石に聞く”。ちょっとした角度の違いや石の座りで庭園の印象が変わる。

庭匠 風玄 東京庭師 堀内千恵さん

料亭「玉家」の離れにある「Cigar & BAR Tamaya」の庭にて。「玉家さんは、私たちのホームページを見て、作庭をご依頼してくださったはじめてのお施主さま。この庭園を評価してくださった方からも作庭のご依頼がありました」

撮影協力 料亭「玉家」
http://www.tamaya1927.com

「草引き」の中にも生きる庭師として心得と姿勢

「はじめの頃は、現場から帰る車の中で『もう辞めよう』『今日が最後だ』と何度思ったかわかりません。でも翌朝になるとなぜか現場に行ってしまう。きつくて辛くて、これ以上できない−と頭では思っているのに、体は自然と行く準備をしてしまうんですよね」

庭師としての修行のはじまりは「草引き」という作業だった。草を取るでも刈るでもなく、根っこから引き抜く。夏の京都の過酷な暑さの中、来る日も来る日も土から数mmしか出ていない草を引くのがきつかった。しかし、少しでもきつそうにしていると、親方から「お客さまはお前らの背中にいくら払ってんだ!」と怒鳴られた。

「現場は高台寺ですから、全国からお客さまが拝観料を払って庭を見に来られるところです。私たちはその庭に溶け込み、こうやって庭が維持されているということも見てもらっているんだと、親方に言われてハッとしました」

親方のもとで蓄えたことは、庭造りの技術だけじゃない。自然と向き合う心、プロとしての心得や姿勢、職人の魂を込めた庭ができたときの言葉にならない感動……それらがすべて自分たちの庭造りに生きている。

痛みや辛さをひととき忘れられるホスピスの庭を造りたい

庭師はさまざまな知識やスキルが求められる職業だ。図面の描き方、道具の使い方、石の組み方、苔や樹木の特徴や生育環境など、庭に直接関わることだけでなく、建物と隣接することから設計や建築に関する知識もいる。それらを経験の中で培い、さらに想像力やセンス、オリジナリティも必要になる。

技術だけでは成立しない世界だが、「こんなに楽しい仕事はない」と堀内さん。

「庭造りはもともと極楽浄土を再現する意味合いが強く、基本的には仏教の考え方がベースにあります。かつて疫病や戦いで寿命が短かった時代、庭は生きながらにして安らかな心を取り戻す場所でした。私たちもそうした“庭の根源”を大切にして、人々が安らぎや癒しを求めて集まる庭をめざしています。体力もいるし、苦労もありますが、完成した庭を見て“わぁすごい!”と喜んでいただけるのが、本当に嬉しいです」

庭園は生きものの集合体だ。造り上げたとき美しければ良いというのではなく、春夏秋冬にどんな表情を見せるか、5年先、10年先に植物がどのように成長するかを見越して造っていく。また毎日水を撒き、草を引くなど、持ち主の日常の作業があってはじめて良い庭へと育つ。

「そのためにも私たちは愛していただける庭にしなければなりません。お施主さまの好みや要望を叶えることはもちろん、配置や動線を考え、楽しんでいただくための工夫を施し、引き渡し後もお施主さまが庭に出て作業しやすい環境を整えます。その上で、せっかく私たちにご依頼いただいたのだから、私たちでなければできない庭にしたいんです」

そんな堀内さんに「この先、造りたい庭は?」と尋ねると、「ホスピスの庭」と返ってきた。

「痛みや辛さがあってもひととき忘れられる場所、不安が和らいで元気をもらえる場所を造りたいですね。それから、全国47都道府県に自分たちの庭を造りたいし、いつか親方のように世界各国に日本庭園を造ってみたいです。土壌や風土、文化が違う中で、どんな庭園が造れるのかなと想像するとワクワクします」

堀内さんの庭造りへの意欲は尽きない。

「お施主さまとの打ち合わせでご希望や生活スタイルをお聞きし、どのように使っていただくかを軸に庭の全体像を描きます。私たちの考えや思いを図面に落とし、ときには模型を作ってご提案することもあります」

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庭匠 風玄 東京 代表
深津晋太郎さん

庭匠 風玄 東京 代表 深津晋太郎さん

庭匠 風玄 東京 代表

深津晋太郎さん

堀内は発想が豊かな人。僕も彼女も「親方から学んだことが基点」という部分では同じですが、彼女の考えには何かしらプラスαのオマケがついてきます。それが僕たちのオリジナリティとして輝くことがあるので、意見が違ってもとことん二人で話し合います。互いに「良い庭を造りたい」「お施主さまに喜んでいただきたい」という思いがあるから、ぶつかり合って当然。彼女から出てきたアイデアがかなり変化球でも、どうすれば実現できるかな、といろんな方向で考えることが楽しいですね。