特集 Vol.126(2018年12月号)

日立建機が1965年に開発した純国産技術によるわが国初の油圧ショベル「UH03」が2018年夏、独立行政法人 国立科学博物館が認定する「未来技術遺産(正式名:重要科学技術史資料)」の第00249に認定された。それは単に国産初となる油圧ショベルの開発のみならず、世界トップレベルの油圧システムへと磨き上げてきた技術革新の歴史に対しての褒賞だと考える。

いまや日本で使われているショベルの約8割が油圧システムを搭載した油圧ショベル。

そんな当たり前となっている油圧ショベルだが、今号ではその根本となる「油圧」についてご紹介したい。

日立建機が磨き上げてきた油圧技術。そこには、操作性にこだわるが故の開発の難しさと、「電子制御」との融合によってさまざまなバリエーションを実現できる可能性が秘められていた。

Column(タップして読む)

現在まで引き継がれる油圧ショベルの原型「UH03」

現在まで引き継がれる油圧ショベルの原型「UH03」

油圧ショベル「UH03」は、日立建機の前身である日立製作所の建設機械部門が開発した「純国産技術」によるわが国初の油圧ショベル。それまで主流だった1ポンプ1コントロールバルブ方式の油圧システムに対して、独自技術による2ポンプ2コントロールバルブ方式を採用することで、複合動作の操作性と動作速度を飛躍的に高めた。以後、日立建機はこの油圧システムを磨き上げ、油圧ショベル製造のリーディングカンパニーとして走り続けている。なお、UH03は一般社団法人日本機械学会の2011年度「機械遺産」にも認定されている。

油圧ショベルはなぜ動く?

小さな力で大きな力を発揮「油」を利用するメリット

Column(タップして読む)

図1パスカルの原理

図1パスカルの原理

図1 パスカルの原理

たとえばU字型の容器に水や油などの流体を入れ密封した場合、断面積の大きさが違っても流体の面の高さは一定になる。

これはつまり、断面積の小さいほうに力を加えるだけでより大きな力が発揮できる原理。油圧システムはこの原理を応用して大きな力を発揮するよう作られている。

油圧ショベルは、油圧によって大きな力を発揮して仕事をする機械だ。だが、強力なパワーを出すために大きな部品を必要とするのでは効率が悪く、無駄が多い。できるだけ、“小さな力で大きな力を発揮する仕組み”がいい。そこで応用されたのが、中学校の理科の時間で習った「パスカルの原理」。流体を密閉した状態では、断面積が違っても流体の高さは一緒になる。簡単にいうと、密閉した流体を使えば小さな力でその数倍の力を発揮できるのだ(図1参照)。

その流体に「油」を利用して動かしているのが油圧ショベル。油圧ショベルの素晴らしさは、エンジンにより油圧ポンプを動かすだけで、油圧機器が作動し車体の走行や旋回、アームやブーム、バケットなどの複数の動作を同時に行い、また非常に大きな力を出すことができること。しかも時代の流れに伴い、その動きもより繊細でスムーズに進化してきている。燃費も良くなり、長寿命にもなってきた。

では油圧ショベルは、どんな原理で動いているのか(図2参照)。

まず油圧機器を動かすには、その名の通り「油(作動油)」が必要となる。この作動油を貯めておく場所が「作動油タンク」。

このタンクに貯められた作動油を吸い上げ、圧力を加え、高圧な油(圧油)に変える機能を持つのが「油圧ポンプ」だ。人間にたとえると、作動油は血液、油圧ポンプは心臓にあたる。ただ自発的に動く人間の心臓とは違い、油圧ポンプは外部の動力源となるエンジンによって動く。エンジン出力が高ければ、より高い圧力で多くの油を出せ、高いパワーを生むことになる。

一方で、従来ディーゼルが主流だったエンジンは、近年では環境面や燃費性能から電動モータとエンジンを併用したハイブリッドシステムや電動モータなど、動力源も多様化している。併せて油圧システムも高圧力だけでなく、電子制御技術と組み合わせた複雑で精緻な制御を実現している。

Column(タップして読む)

図2油圧ショベルを動かす仕組み

図2油圧ショベルを動かす仕組み

  1. 作動油を貯めたタンクから、
  2. エンジンの動力によって作動油を
  3. 油圧ポンプへ吸い上げて高圧の油をつくり(圧油)、
  4. コントロールバルブへ送る。送られた圧油は、オペレータの操作に応じて
  5. コントローラから指示を受けた油圧ポンプや
  6. 電磁弁ブロックそれぞれにある電磁弁の流量調整や圧力制御といった細かい制御により、コントロールバルブから
  7. シリンダやモータへ適切に振り分けられる。これによってフロント動作や旋回・走行を行うことで油圧ショベルは動いている。

油圧ショベルの動作の要 コントロールバルブと電子制御

さて、油圧ポンプで加圧された圧油は次に「コントロールバルブ」へ送られる。コントロールバルブは油圧システムの重要なパーツの1つだ。1cm2あたり約350kgという強い油圧に耐えられるよう高硬度の鋳鉄を使い、継ぎ目のないモノブロック(一体構造)で作られた金属の塊。シリンダやモータなど油圧ショベルの各部を動かすアクチュエータがオペレータの意のままに動くよう、油圧ポンプから送られた圧油をコントローラから出された信号に応じて制御を掛け、最適に配分するのがコントロールバルブの役割だ。

土を掘り、旋回して、積み込む“複合動作”と呼ばれる油圧ショベルの仕事に欠かせないこうした動きは、精密な油量の振り分けができてこそ。それを実現するため、油圧回路が刻まれたコントロールバルブの内側では複雑かつミクロン単位の精度で成型加工された各種の流量制御弁がピストン運動している。このほか、設定以上の圧力が出ないよう、圧力を逃がす「安全弁(リリーフ弁)」などがコントロールバルブ内で複雑に動作し、油圧ショベルの動きを支えているのだ。またコントロールバルブとともに、油圧システムに欠かせないものがある。それは電子制御(=電子化)の技術だ。 いま自動車や産業機械で進む電子化。これは油圧ショベルも同じ。とくに繊細で複雑な作業を効率よく行うため、油圧を最適配分するために電子制御化は外せない。なかでも1980年代後半からコントロールバルブや油圧ポンプに採用され始めた「電磁弁」は、制御対応力を大きく変えた。電気磁石で弁を動かす電磁弁は応答が素早く、的確なため、より繊細な制御が可能になったのだ。個々のオペレータが求める微妙な操作感覚に応えるため、時代とともに搭載する電磁弁の数も増え、最近のモデルでは20〜30個の電磁弁を採用。いくつもの電磁弁がまとまり、ユニット化(電磁弁ブロック)され、コントローラからの信号に応じて的確な動きを行っている。

今後はこうした電磁弁とセンサを組み合わせることで、稼働状況に応じたより最適な油圧制御や、故障予知などによる油圧システムの長寿命化や経年変化に応じた制御も可能になる。

コントロールバルブと電子制御

Column(タップして読む)

コントロールバルブ

コントロールバルブ

コントロールバルブ

油圧ショベルの頭脳部分である、コントロールバルブ。スムーズな複合動作を行うためには、このコントロールバルブからシリンダ、モータへ最適に圧油の流量や方向を振り分けることが欠かせない。車体に迷路のように張り巡らされた油路に油を効率良く送り、各アクチュエータを緻密に制御する。

Column(タップして読む)

電磁弁とコントローラ

電磁弁とコントローラ

電磁弁とコントローラ

電磁弁は電磁石と弁を組み合わせたもので、電気信号で動作する。応答性、制御性に優れ、より緻密な制御が可能になった。初めて電子化を導入したEX200-1は、エンジン回転数とポンプの流量制御のために3つの電磁弁を使用。現在では中型油圧ショベルにおいて20〜30個の電磁弁が搭載され、複雑な制御パターンが可能となり、電子技術を組み合わせた独自設計のコントローラによって電磁弁を制御している。

油圧の“なるほど”

Column(タップして読む)

身近な油圧「観覧車」

身近な油圧「観覧車」

身近な油圧「観覧車」

油圧を動作に変える「油圧アクチュエータ」。遊園地にあるお馴染みの観覧車は、油圧の力を回転に変える油圧モータがアクチュエータとして使われている。いくつものゴンドラを支える巨大なホイールを複数の油圧モータでサンドイッチし、ゆっくり回転させることによって観覧車は動いている。ゆっくりと正確に回り、大きな力を出せるのは油圧の得意なところ。安定性や制御のしやすさ、静音性、さらにはコンパクトでコストが抑えられるといった油圧モータの優位な性能面から、多くの観覧車に油圧モータが採用されている。

Column(タップして読む)

どうして油圧? 水圧ではダメ?

どうして油圧? 水圧ではダメ?

水鉄砲や噴水のように、水も圧力によってパワーを生む。しかし、水は0℃で凝固し、100℃で蒸発してしまい、過酷な温度下で仕事をする油圧ショベルには都合が悪い。温度変化に対して性状が変わりにくいのは、水より油なのだ。また粘りがなくサラサラしている水は、漏れやすいために密閉空間に封じ込めにくく、また金属を腐食させてしまうデメリットもある。一方、油は粘度が高いために水に比べて漏れにくい上、シリンダーなど金属同士をこすり合わせる場合に潤滑油の役目も果たす。ただ油は燃えやすい欠点も。それだけに外部に漏れないさまざまな工夫や対策、また難燃性作動油などが開発されているのだ。

どうして油圧? 水圧ではダメ?

Column(タップして読む)

人間の腕と油圧ショベルの腕

人間の腕と油圧ショベルの腕

人間の腕と油圧ショベルの腕

似ている2つの“腕”のうち、人間の身体は筋肉の収縮によって動く。例えば「肘を曲げる」動作は、上腕二頭筋の収縮と上腕三頭筋の伸長が同時に行われる。一方、油圧ショベルの“ 肘先(=ブーム)”を曲げるのはブームシリンダ1本。シリンダ内に圧油を送ることでブームを曲げ、抜くことで伸ばしている。人間の腕力は筋肉の断面積によって決まり、断面直径が10oの筋肉で約10sを支えるといわれるが、油圧ショベルはシリンダ内径だけでなくコントロールバルブから振り分けられた圧油によって非常に大きなパワーを生み出す。人間の上腕と同等のシリンダ径でも、その力は10倍、いや100倍以上。しかもパワーのみならず、高度な油圧制御技術によって、レバーの操作1つで“意のままに機械を操る”ことも可能にさせる。