拝啓 現場小町Vol.126(2018年12月号)

拝啓 現場小町

取材・文/中村美砂子(モック社) 撮影/倉部和彦

全国の漁場をネットワークでつなぎ衰退する漁業の未来を変えてみせる!

萩大島船団丸 代表 株式会社GHIBLI 代表取締役

坪内知佳さん

減少し続ける漁獲量の現状を打開するため6次産業化に踏み切る

山口県萩市の日本海沖に浮かぶ大島(通称:萩大島)。人口約700名のこの島は、約半数の世帯が漁業に就く漁師の島だ。

この島で、巻き網漁を行う萩大島船団丸の代表として漁師たちを率い、6次産業化※1を実現した坪内知佳さん。荒々しい海の男たちと肩を並べ、言い争いあり、喧嘩ありの中で、淡々とビジネスを進める姿は、今やメディアでもひっぱりだこだ。

今から8年前。船団丸団長・長岡氏から「事業計画書を手伝ってほしい」と声がかかる。坪内さんが漁業を起点とするビジネスに携わるようになったのは、これがきっかけだった。

日本の漁業は著しい漁獲量減少に直面している。ピーク時は25万tもの魚が獲れていた萩大島も、近年では多くて3万tだ。しかも大量の魚を捕獲する「巻き網漁」には3カ月の禁漁期間がある。また漁期でさえ、海況が荒れれば漁には出られない。平均して年間実働は70〜80日程度。にもかかわらず、魚そのものが減っている。当然、収入は激減、生活は苦しくなる一方だ。

この状況をなんとか打開しようと、坪内さんは長岡氏の呼びかけに応じた。「当時、農林水産省が『六次産業化・地産地消法』に基づく認定事業者を募集していました。私たちは約1年をかけて事業計画書を作成・提出し、2011年5月に中国・四国地方で第1号の認定業者となったのです」

この時、坪内さん24歳。当時は魚の名前すら知らなかったが、「漁師たちの 逼迫 ( ひっぱく ) した状況をなんとかせねば」と無我夢中で取り組んだ。

萩大島船団丸 代表 株式会社GHIBLI 代表取締役 坪内知佳さん

山口県萩市の大井港から漁船で10分ほどの萩大島。坪内さんは毎日、この島まで通ってくる。

萩大島船団丸の漁師たち

萩大島船団丸の漁師たち。メディアで船団丸の活動を知り、全国から漁師志望の若者がやってくる。

獲れた魚は船上で血抜きして、箱詰・出荷

獲れた魚は船上で血抜きして、箱詰・出荷。市場を通すより 2〜3日早く消費者の元に届くため、鮮度の高い状態で提供できる。

トライ&エラーでたどり着いた自家出荷のビジネスモデル

営業や売上管理に加え、講演やメディアへの出演など毎日多忙を極める

営業や売上管理に加え、講演やメディアへの出演など毎日多忙を極める。坪内さんの活動は映画化も決まっている。

最初に取り組んだのは、魚の自家出荷だ。獲れたての魚を直接消費者に届ける「 活粋 ( いきいき ) BOX(鮮魚BOX)」という商品をつくった。しかし通常、獲れた魚は市場(漁業共同組合:以下、漁協)→仲買人→小売店を介して消費者に届く。それを消費者に直接届けるという目論見は、漁協からの反発を招いた。そこで漁師も漁協も共に潤う仕組みとして、獲れた魚の大半は漁協に出し、自家出荷に回す分についても、漁協と仲買人に一定の手数料を支払うことで折り合いをつけた。

だが当初は「活粋BOX」の買い手などなく、まったくのゼロスタート。営業、営業、また営業の日々が続く――。

シングルマザーの坪内さんは子どもを保育園に送った後、新幹線で大阪へ行き、1日に飲食店を4〜5軒まわり、取引先を少しずつ増やしていった。しかし次は、魚の詰め方にクレームが相次ぐ。「首が折れてるじゃないか」「魚が氷水に浸かって目が真っ白だ。こんなの使い物にならない」と、あちこちから電話がかかり、取引停止となることも多かった。

それまで漁師たちは、魚を獲ったら「水揚げして終わり」だった。しかし、「活粋BOX」を開始してからは、漁港に戻った後も箱に魚を詰めて出荷するという別の仕事が加わる。ところが、獲れたての魚を新鮮な状態で送るためのノウハウも持っていなかったのだ。「最初はトラブル続き。課題に次ぐ課題でしたが、ここを超えていかねば何も変わりません。仕事が増えるのに収益は上がらない日々が数年続き、漁師たちとの摩擦も大きかったですが、その都度『私たちは何のためにこれをやっているの?』と繰り返し話をしました。たとえ大喧嘩してギクシャクしても、結局は『萩大島の漁業を盛り返す』という共通の夢があったからこそ、続けてこられたのです」

船上で漁師たちがスマホを駆使 LINE※2を使ってその場で売買

スタディーツアーに参加した他地域の漁師

スタディーツアーに参加した他地域の漁師たちから質問を受ける。どの地域でも、「現状を変えていかねば」と危機感を抱いているという。

この8年で取引先は600件を超え、多いときは1日に50件もの「活粋BOX」が出荷される。梱包の仕方や取引先とのやりとりも、何か問題が起こるたびに改善してきた。ユニークなのは、漁師たちが船上でスマホを駆使して売買を行うことだ。

水揚げされた魚は船上で漁師たちが写真に撮ってLINEで取引先へ送り、その場で注文が決まる。「イサキが獲れたら送ってほしい」など、あらかじめ注文を受けている場合もある。リアルタイムのやりとりで時間のロスがない。つまり、それだけ鮮度のいい魚が取引先に渡るという、絶対的な付加価値となっているのだ。

「他の人と同じことをやっていては、絶対に成功しません。とにかくやってみて、目の前の問題点を1つひとつクリアしていく。その繰り返しで現在のビジネスモデルが成り立っています」

萩大島船団丸の取り組みは、全国の漁業関係者に衝撃を与えた。注目の的となり、船団丸が催行する「スタディーツアー」には他地域の漁師や漁協関係者、議員たちが参加して話を聞きにくる。

坪内さんはこのビジネスモデルを水平展開するために、現在6カ所の漁師町を訪問し、コンサルティングを行っている。

「今のままでは漁業は衰退、そうなれば日本人は魚を食べられなくなります。日本の海が元気になるためには、漁業従事者のネットワークが必要です」

萩大島の海を元気にしたいと始めた取り組み、その目標はいま「日本全国の海」へと広がっている。

※16次産業化:
生産(1次産業)だけでなく、加工(2次産業)、流通・販売(3次産業)にも取り組むことによって産業を活性化させる仕組み。1次産業×2次産業×3次産業=6次産業
※2LINE:
「LINE」はLINE株式会社の商標または登録商標です。

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萩大島船団丸団長
長岡秀洋さん

萩大島船団丸団長 長岡秀洋さん

萩大島船団丸団長

長岡秀洋さん

坪内さんは縁あって私たちと一緒に6次産業化に取り組んでくれています。魚の名前や漁業の仕組みを一から勉強するなど、まったくの素人からのスタートでしたが、今では私たちを引っ張ってくれる頼もしい存在です。意見が合わず摩擦が起きることもありますが、今までと同じことをやっていては何も変わりません。今後は坪内さんに頼りっぱなしにするのではなく、私たち漁師も自立心をもって、取り組んでいかねばならないと感じています。

TVのドキュメンタリー番組が取材

全国の漁業関係者が関心を寄せるスタディーツアー。その様子をTVのドキュメンタリー番組が取材。